私が所属しているラボは、ボストンの中でも結構厳しいことで有名である。特に、週1回のミーティングには特別な緊張感がある。ラボの各メンバーそれぞれが、先週の実験結果とその考察について、一人ずつ前へ出て、スライド形式で発表する。そしてたくさんの議論が交わされる。その時間はトータル4時間以上に及ぶ。そのミーティングがあるため、皆、必死で良い結果を出そうと頑張る。中には、1週間で1本の論文が出来上がるんじゃないかと思わせるような、特大ボリュームの素晴らしい結果を発表する同僚もいる。議論の後、最後に厳しいボスがコメントをする。私達ポスドクの中で、ボスの言葉の真意はある程度分類されている。「Good」なら「あまり良くない」、「Very good」なら「その方向で続けてくれ」、「Excellent」なら「かなり良い」。そして、「Why did you do that?」なら「最悪」を意味する。当初、そのような雰囲気の中で、私は常に、変なプレッシャーと緊張感に苛まれていた。ある日、あるボスの言葉を聞くまでは。

あるミーティングで、プレゼンの用意が出来なかったメンバーが2人ほどいた時があった。

ボスから「Who’s next!!」の声。沈黙が続く、、、。しばらくして、そのメンバーが申し訳なさそうに、プレゼンを準備出来なかった言い訳をした。

腕組みしたボスに注目が集まり、静寂のミーティング室に緊張が走る。

そしてボスが口を開いた。

「このプレゼンは君達を評価するためのものではない。忙しいスケジュールの中、僕は月曜の朝だけはこのミーティングの時間に充てている。それは何故か。僕はここの責任者として、皆が何を考え、何が今の問題点で、何を助けてあげられるのか知る必要がある。プレッシャーを感じる必要なんてないのだ。2年や3年で君達が成果を挙げられないなら、それは全て僕の責任だ。」

私は完全に誤解していた。単なるスパルタ方式ではない。ハーバード大で教授にまでなるような人の心持ちを。そして同時に、こう思った。この人にならどんな相談もできるし、どんな貢献でもしたい。そう部下に思わせるような人格・言動こそ、一流のリーダーに必要な素養なのかもしれない。」

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